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大阪地方裁判所 昭和54年(む)135号 決定 1979年5月29日

被疑者不詳に対する非現住建造物放火被疑事件について大阪地方裁判所裁判官が昭和五四年一月五日付でした

捜索差押許可状の発付及び右許可状に基づき司法警察員が同月九日行なつた差押の処分に対し、同年三月一三日申立人

(代理人弁護士大野康平、同下村忠利、同北本修一)から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件各準抗告を棄却する。

理由

一、二<省略>

三本件差押許可状の発付が違法であるとの主張について。

まず、申立人は、本件捜索差押許可状の発付についてその取消を求めているので、この申立の適否について検討するに、右許可状の発付は、刑事訴訟法二一八条により、裁判官が、捜査機関の請求に基づき、捜査機関において捜索差押処分を実施することの適法性等を事前に審査したうえ、捜査機関に対してその実施を許可したものにすぎず、右許可状の発付がなされたからといつて、直ちに捜索すべき場所の居住者や差押えるべき物の所有者らに対して直接に効力を及ぼすものではないしかつ、これらの者にとつてみてもこれに基づいて捜査機関が現実に捜索差押を実施しないかぎり何の実害も生じないものであるから、右許可状の発付自体の取消を求めることはできず、ただ捜査機関によつて具体的な差押処分がなされたときにその取消を求めうるにすぎないものと解すべきである。即ち刑事訴訟法四二九条一項二号は、裁判官がした押収に関する裁判について準抗告を許しているが、右にいう押収に関する裁判とは、受命裁判官もしくは受託裁判官(同法一二五条)または証拠保全の請求を受けた裁判官(同法一七九条)がする押収に関する裁判の如く、被押収者に対して直接に効力を及ぼすものを指すものと解すべきであつて、これと異り、捜査機関に対する捜索差押許可状の発付自体は四二九条一項の準抗告の対象とならず、その手続的実体的瑕疵は捜索に関する点も含め捜査機関による差押処分の一要素として、これに対する同法四三〇条一項二項による準抗告において主張しうるにとどまるものである。

よつて、右許可状の発付自体の取消を求める申立は不適法として棄却すべきものである。ただ、その理由として申立人が主張するところは、右の申立と合わせて本件差押処分の取消をも申し立てているので、その理由の一として検討すべきものであるところ、本件許可状発付の際、司法警察員が提供した疎明資料によると、昭和五三年一二月一八日午前四時三五分ころ大阪府旭警察署高殿五丁目警ら連絡所の建物に何者かが時限発火装置によつて放火したこと(本件被疑事実)、これとほぼ時を同じくして千葉県、東京都等において成田空港関連施設、警察施設が同様に時限装置によつて放火されたこと、これらの事件に関しいわゆる中核派が成田空港反対闘争の一環である旨の犯行声明を発したこと、過去の同種事案や同派の運動方針、活動歴などからみて本件も同派に属する者の犯行とみられること、本件の捜索場所である富田町診療所は同派が関西における拠点の一つとして自ら把握しているものであること等の事実が認められ、その他の疎明資料とも綜合すると、本件被疑事実に関し、富田町診療所にその証拠物又は没収すべき物と思料される物が存在すると推認される状況にあつたというべきである。そして右許可状は、捜索すべき場所および差押えるべき物につき相当程度に限定していることにかんがみると、右許可状の発付に違法不当の廉はなく、本件差押処分を違法たらしめる事情はない。<以下省略>

(西村清治 下司正明 白神文弘)

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